新宿区四谷「金駒」
四谷の地で魚を売り続けて110余年。歴史とともに培ってきた確かな経験と技術。
時代の流れに合わせてフレキシブルな営業を
JR・東京メトロの四ツ谷駅から徒歩で5分ほど。雑居ビルが立ち並び、会社員が行き交う新宿通り沿いに「金駒」は店を構える。創業はなんと明治30年(1897年)。以来ずっとこの四谷の地で営業を続けているという。
「関東大震災で下町がやられたでしょ。ここは地盤がいいんで残ったんですよ」と語るのは三代目の駒井米蔵さん。御年80歳の生き字引は「魚食べてると長生きするんですよ」と笑顔を見せる。
時代の移り変わりとともに住宅が減っていき、ビジネス街となったここ四谷で、「金駒」は小売りのほかにも学校給食や飲食店への納入、慶事や法事の仕出しも行っているという。
「自分たちでできるように料理の勉強もしてね。勉強すれば勉強するだけ、そういうお客さんが来てくれる。手前味噌になっちゃうけど、ここに来ればおいしいものが食べられるからって、わざわざ車に乗って来てくれるお客さんもいますよ」
7年前までは店舗の2階で飲食店も営んでいたのだそう。街の変貌に合わせて、営業の方針もフレキシブルに変えていく順応性がたくましい。
鮮度はもちろん魚の扱い方にも細心を払う
「市場では売るほうも商売人、買うほうも商売人」と駒井さん。「長いことやってると問屋(仲卸)とは顔なじみなもんだから、品物に不満があった場合は、電話すればすぐにチェンジしてくれる」
魚屋は鮮度が命。品物の扱いにも気をつけているという。
「よくテレビで鯛を尻尾からぶらさげているでしょ。あれはぜったいだめだよ」
片方の手で目の辺りを持ち、もう片方の手を魚体に添えるように持つのが正しいそうだ。
「鰆は手で持ったら身割れするから、板を添えて運びなさいってね、親の代から言われてることだけど。今は発泡スチロールに氷詰めでもって運ぶでしょ。これも時代の流れですね」
冷蔵庫や冷凍庫の性能が向上するにつれ、魚の"手当て"が変化していると駒井さんは話す。この"手当て"という言葉の響きに、脈々と受け継がれてきた手法を守り続け、魚のいちばんおいしい味を伝え続けているという誇りを感じた。
話を聞いて一人ひとりを大事にすること
魚を知り尽くしているだけあって、お客さんに調理法のアドバイスもするのだろうか。
「あたしの商売のやり方は、まずお客さんの話を聞くこと。だから、『こうしなさい』ということは言わないの」
自分ならばこの魚をこうやって食べる。お客さんとおしゃべりしながらそう説明するのだそうだ。
「これは味噌漬けにして一晩置いて、あくる日焼いて食べたらほどよく味がしみておいしい」
魚によって説明を変えて話すと「じゃ、やってみるわ」と買って行ってくれるのだという。
「一人のお客さんが満足して帰れば、外に行って宣伝してくれるんですよ。いかに一人のお客さんのバックには何十人っているかってね。だから一人ひとりを大事に」
80歳になってそういう商売の仕方がようやくわかってきたと話す駒井さんの表情は、温和な人柄が滲み出た笑顔ながらも、経験に裏打ちされた自信に満ちていた。
データ
金駒
〒160-0004 東京都新宿区四谷2-8
TEL:03-3351-4306 FAX:03-3351-4314
営業時間:9:00~18:30
休業日:日曜日、祝日